あしながおじさんと呼ばれて

「どこのあしながおじさんですか。」

 

とツッコミを入れられた時のエピソードです。

 

まだ20代のころですが、あるイベントの会社でタレントとして所属していました。

入った時はまだ19歳でしたが、何年かいると後輩もできるものです。

あるとき、まじめでよく働く心の美しい後輩ができました。名前はアルファベットを入れて、O麻とします。

 

O麻はかわいい後輩でしたが、ある日、札幌に帰郷するということで退職しました。

先輩としては何もしてあげられないまま、送別会で30人くらい集まったところに合流して、でもほとんど話もできないまま、O麻は札幌に帰郷しました。

 

それから15年以上経過したある日。札幌出身の劇団主宰者でありタレントのKさんと、ひょんなことから知り合いになりました。東京で一旗揚げたくて、団員を置いてまずは自分が東京で仕事や人脈を持ち、いずれ大泉洋さんのようになりたいとの事でした。

 

ところがそのKさんも、札幌に帰郷してしまいました。

私はそのKさんの劇団が公演する時には、よくお花を贈ったり、クリスマスツリーを贈ったりして、観に行けない分、東京からお祝いをしていたのです。

 

ある日、そのお礼にとお手紙が送られてきました。制作スタッフさんが主宰のKさんの代わりに送ってくださったようですが、そこには「O麻H美」とありました。

 

もしかして?15年以上も前の記憶をほじくり出して必死にいろいろ思い出し、もしやもしやの気持ちでKさんに尋ねたところ、かつて後輩だった、あのO麻だったのです!

 

こんなことってあるんだなぁと思って、メールや手紙でやり取りしていましたが、ある日、用事があって札幌に行くことになりました。

久しぶりにO麻とKさんとお会いしたのです。感動でした。

Kさんは既に劇団を終了させていて、今はタレント養成所で若い子を育てているそうです。劇団の制作をしていたO麻は、別の会社でタレント業をしています。

O麻は、主宰のKさんからも劇団員からも、「麻姉」と呼ばれて親しまれ、頼られ、信頼され、絆をしっかりと持っていたようでした。

そんな姿を間近にして感激し、誇り高く思えたのです。もちろん、O麻がすごいんですよ。

 

O麻とはそれから何度か、札幌に行くたびにちょこっとでも、あえる時は会っています。

 

O麻はそろそろイイトシなので、早く結婚してほしくて、会うたびにロクシタンのきれいになれる美容セットをプレゼントしています。久しぶりに会った日に二人でロクシタンに行き、私からおすすめを見繕って差し上げました。

それはそれは大変喜んでくれて、その時のO麻は私をホテルまで送り届けてくれたほどです。

 

確か昨年末も、札幌駅に到着したらワインを片手に待っていてくれて、「さくら姉さん、大丈夫です。コルク抜きも用意しておきました!」とセットでいただきました。

マジか!!

感動して喜んで受取りまして、東京からのお土産をあげて、その日はそれで終わってしまったのだけど、O麻に会えたことだけでもうれしいのに、私がワイン好きだと知って、わざわざ用意してくれたその心遣いに感動しました。

 

お互いに忙しい日々を送っているし、もちろん同時に年もとっているし。

だけどO麻は、一生懸命生きている。O麻は一つ一つの仕事に手を抜かずに、プロとして誇り高く取り組んでいる。そんなO麻を見て、また刺激を受けている私がいる。

 

8月に札幌に行くことができなかったので、9月は行けるかな、と期待して、札幌のイタリアンの食事券をクーポンサイト(Hot Pepperともいう)で取得しました。

食事券は1500円分。ワインを一本あけそうな私ですから、この1500円分はナイス!と思っていたのですが、事情があって10月まで延期になりました。

でもこの食事券は9月しか使えません。

そこで、O麻に郵便で送りました。お小遣いに5000円プラスして、「ここでディナーしてきなさい。」と、なぜか命令口調で。

 

タレント業をしているO麻は、GWやシルバーウィークが稼ぎ時です。忙しく大変だったようです。

このイタリアンを目指して頑張れたかな。休みになった平日に彼氏とディナーに行ってきましたとご報告メールをくれました。なんとか楽しめたようです。

いい店なら良かった。ホッとしました。でもきっとO麻の事だから、悪い店でも良いところを探しだして「素敵な時間になりました」と報告するでしょう。そういう人なのです。だから、本当によかった、と思ってもらえるようなことをしてあげたいのです。

 

10月に入り、札幌にいきました。おばあちゃんのお手入れや何やらで3日間の滞在も忙しい私でしたが、3日目のお昼にちょこっと時間をもらって、O麻と会ったのです。

 

その時のO麻は…私の大好物の余市ワインを持って待っていてくれました。

しかもイタリア人が経営しているイタリアンチーズの専門店で、ワインに合う極上のチーズを用意して。まるでその場でディナーができそうなくらいの準備万端でした。

ワインはO麻が、チーズは彼氏がご用意くださったとのことで、二人がかりで素敵なお土産を用意してくれていたのです。びっくりしました。

 

荷物的にどうにもならなかったので、そのまま郵便局で東京の自宅に送りました。

身軽になった私たちはランチに行きまして、食事しながらいろんなお話をしました。

仕事のことや結婚のこと、Kさんは今フィンランドにいるらしいとか、イベントが増えて10月までなんやかやと忙しいとか。咲は何しに札幌に来たのか、とか。

 

やはり美容の話になりまして。環境さえ整えばO麻にもお手入れしてあげられるんだけど、時間も環境も限りがあるため難しい。

となれば、おフランスロクシタンさまに頼るしかない。

毎度同じもので申し訳ないんだけど、ロクシタンでもいい?じゃ、買いに行こうか。もう食事も済んだし。

 

そういうと一言。

「どこのあしながおじさんですか。」

O麻にツッコミ入れられました。

「いやいや、短足おばさんだから。」

と答えて二人で笑いました。

 

そのランチ代をO麻の分も支払うと、また、

「ごちそうさまでした。すみません。もう。どこのあしながおじさんですか。」

なので私も

「いやいや、短足おばさんだから。」

と言って笑う。

 

そのまま一緒にロクシタンに行きまして、お店の人がおすすめするクレンジングと美容クリームを購入。確か、合計18000円位かな。

お店の人が特典を色々つけてくれたので、それも全部まとめてもらいまして、お店の外に出たところで、「はい。」とO麻にプレゼントしました。

 

O麻はまた、

「どこのあしながおじさんですか。」

「いやいや、短足おばさんだから。」

とのやり取り。

どうやらO麻にとってのこの一言は、照れ隠しと感謝と称賛が含まれているようです。

私は謙遜と照れ隠しで答えてしまいます。

似てるなぁ。と思うわけです。

 

ロクシタンの正面に、PAULというおフランスのパン屋さんがあります。

最後にそこでおいしそうなパンをいくつか購入しO麻に持たせました。

喜んでくれたみたいです。良かったな。

 

O麻は誰に対してもそうですが、「こんな私なんか」というようなことを言います。

自分にはもったいないから、自分には似合わないから、自分なんかに・・・

そういって相手を優先させたり、譲ったり、相手の負担にならないように振る舞います。

何かしてもらうと、自分なんかにもったいない、と思うと素直に喜べず、申し訳なくなってしまいます。

そんな風にいつも頭を下げてしまったり、自分を卑下してしまう。

笑顔がかわいくて魅力的なのに、自分なんか、とか。

仕事ができて技術も知識もあるのに、自分なんか、とか。

彼氏にも素直に甘えられないで、付き合い長いのに、入籍の話を持ち出せないでいるのではないか?と、余計な心配をしてしまいます。

 

だから、素直に正直に、自分をもっと大事にして、自分をもっと尊重してほしいから、私は何かしてあげたくなってしまうのです。

彼氏の目の前できれいになろうとしている姿を見たら、きっと彼氏は何かに気づいてくれるのではないか、とか。

たまにはおしゃれして、雰囲気のあるディナーを二人で楽しんだら、もっとお互いの愛を大事に、前向きになってくれるのではないか、とか。

 

私の勝手な推測でありお節介であるのだけれど、私は何もしないではいられない。

生きてるうちに苗字が変わってほしい、と思ってしまう私は、どちらかというと祖母のような気分かもしれない。

 

ただそれだけのことなのに、O麻は私を「あしながおじさん」と比喩してくれました。

なんてもったいない言葉!と、今度は私が思ってしまった。

 

O麻が喜んでくれたおかげで、私は「あしながおじさん」になれたのです。

ありがとう。人生でこんな風に比喩してもらえることがあるなんて!

生きてみるものだね。長生きするものだね。まだ43歳だけど。

 

私はプレゼントの癖があって、ウグイス嬢の面接に来た女の子に目の前でやっていた物産展で蟹を一杯買ってプレゼントしたこともあったし。

「疲れた」が口癖の女性にフォアグラをプレゼントしたこともあります。

私にできることなんて何もないので、それくらいしか思いつかないのです。

 

誰かに何かしてもらうとうれしいじゃないですか。ただそれだけなんですよね。

 

O麻のおかげで、私は「あしながおじさん」になれました。

でも照れくさいので、自分のことは「短足おばさん」と呼びたいと思います。

 

感謝が尽きません。